泉の鋭い視線を感じて、ビクッと体を震わせてしまう。緋色は彼に本気で怒られたことがなかったし、怒らせてしまった事はなかった。
 優しい人だ。怒ることなどほとんどないと思っていた。

………優しい人ほど怒ると怖いというのは本当の事のようだ。


 「………ごめんなさい。泉くんは、そんな人じゃないよね。」
 「緋色ちゃんだって、そんな人じゃない。どんな両親だって、君はいま楪さんみたいに優しいんだよ。君の両親は、望さんと茜さんだよ。だから、そんな悲しい事は言わないで。」
 

 緋色の両親は、優しくてかっこいい望と優しくて笑顔が可愛い茜だ。
 何の心配などない。自慢の両親だ。


 「そうだね。………私が間違っていたわ。」
 「わかってくれたなら、いいよ。」 
 「…………ありがとう。」


 緋色は「ごめんなさい。」の意味を込めて、彼の胸にゆっくりと体を預けた。すると、頭の上からクスッと笑う声が聞こえ、そして泉は緋色を優しく包んでくれる。


 「緋色ちゃんがまた1つ笑顔になれてよかったよ。…………もっと可愛くなった。」
 「そ、そんな事………。」
 「あるよ。…………本当に俺の奥さんは可愛い。」


 前髪を撫でながら泉は目を細めて、愛おしそうに緋色を見つめる。その視線を近くで感じ、緋色は体が熱くなり、胸がキューッとなった。


 「その顔もいいな………。」
 「………恥ずかしいよ。」
 「その顔が見たいから、だよ。」


 そう言うと、泉は緋色の唇にキスをした。啄むような短いキスを繰り返し、そして、最後は少し長いキスだった。

 キスをしただけのはずなのに、全身が熱かった。緋色は彼に真っ赤になった顔を見られるのが恥ずかしくて、すぐに彼の胸に顔をうずめた。