「………泉くん………私、うまく話せるかわからないけど、聞いてくれるかな。」
 「何か苦しくなったり痛くなったりしたら、無理はしなくていいからね。」
 「………うん。」


 2人は食具を置き、1度食事を中断する事にした。

 いつかは彼に話さなければいけない事だとは思っていた。それが今日になっただけの事だ。そう思い、小さく息を吐き、緋色は話しをし始めた。
 泉ならば、わかってくれるだろう。そう信じるしかなかった。





 「お母様が病気で亡くなったのは、私が19歳の時だと聞かされているわ。………私は28歳の時に事故に遭っていて、それより過去の事はあまりよく覚えていないの。覚えているとしても、誰かに聞いた事に想像が重なって、どれが本当の記憶で誰かから聞かされた記憶なのかもわからない………本当の記憶があるのか、自分の過去なのに、よくわかってないんだ。………だけど、たぶん19歳の時にお母様がなくなったのは本当だよ。」

 
 まだ昔の事を思い出そうとするのは怖かった。けれど、泉にも聞いてもらった方がいい。話をしているうちにそんな風に思ってしまうのは、きっと彼が真剣な表情で聞いてくれているからだと思った。