泉はこの日を楽しみにしており、「早くお揃いのリングしたいね。」と、日々言葉をもらしていたのだ。緋色もそれは楽しみにしていながらも、婚約指輪が出来なくなるのが少し寂しかった。緋色は仕事以外ではなるべく身に付けるようにしていたのだ。左手にその指輪があるだけで、とても安心したし嬉しい気持ちになった。
 結婚指輪は彼とお揃いのものだ。
 きっと、もっとドキドキして幸せな気持ちになるだろうと緋色は確信しており、今日の結婚指輪探しも楽しみだった。

 そんな話をしている時だった。
 泉が突拍子もない事を話し始めた。緋色にとっては驚くべき内容だった。


 「今度、楪さん………緋色ちゃんとお義父さんの誕生日だよね。そのプレゼントも見に行こうか?」
 「え………。」
 「俺もお世話になってるし、君も買うだろう?一緒にプレゼントを何にするか考えないかな、って。」
 「……………ぃ。」


 緋色はすぐに言葉を吐き出したけれど、あまりに小さな声で彼には聞こえなかったようだった。


 「どうしたの?」
 「お父様にプレゼントなんてあげてないよ。」
 「…………急にどうしたの、緋色ちゃん。楪さんはいつも君の事を心配して。」



 いつもと違った様子に、泉は驚きながら緋色の顔を覗き込んだ。
 けれど、緋色はそんな事など気にならないほど、気持ちが荒れてしまっていた。
 緋色は望にプレゼントなど最近全く渡していなかった。最後に渡したのがいつだったのかも覚えていない。
 

 「お父様にプレゼントなんかあげたくない。…………私、お父様が嫌いなの。ずっとずっと………。」


 緋色は怒りを含んだ低い声でそう言うと、泉は驚いき少し悲しそうな顔で、緋色を見ていた。

 けれど、そんな彼を見ていても、父への感情は変わるものでもなかった。