12話「後ろめたい感情」





 どうして彼は自分の事を知っているのだろうか?

 名前を知っていた事。好きな動物や好きな食べ物を知っていたし、趣味は同じだとも断言した。
 緋色の気持ちに気づくのも早く、緋色がどんな風に感じているのかを、彼はすでにわかってくれているようだった。

 もし緋色の事を知っているとしたら、泉は緋色に隠している事になる。どうして秘密にしているのかはわからない。
 本当は聞かない方がいいのかもしれない。
 
 けれど、緋色は知りたかった。
 昔の自分の事を少しでも知りたいと思っていたのだ。


 緋色の問い掛けの言葉を聞いて、泉は動揺をして瞳や表情が歪んだ。
 それを見ただけでも、緋色はわかってしまった。彼は昔の自分を知っているのだと。
 けれど、その表情はすぐに変わる。

 「………知らないよ。………ごめん………。」

 その言葉の中には、彼の「話せない。」「話したくない。」そんな意味が含まれているのが緋色にはわかった。
 彼は切ない声でそういうと、泣きそうな表情のまま視線を下げた。

 きっとこれ以上は、何も答えてくれないだろう。
 緋色はそう思って、「そっか………。」と返事をした。