10話「涙の意味」



 視線を感じる。

 過剰になってしまったのかもしれないけれど、先程よりも視線が集まってきているように緋色は思ってしまった。
 それは、隣を歩く彼が写る雑誌を見てしまったからからだとわかってはいる。けれど、それでも気になるものは気になるのだ。

 あんなにかっこよくて、人気のある人が自分と結婚をするなどありえないのではないか。
 自分に自信のない緋色は、先程から視線を下に向けてばかりだった。

 だが、泉はというと緋色とは全く違う様子だった。


 「嬉しいなぁ。緋色ちゃんからのプレゼント。似合ってるかな?」
 「う、うん………似合ってるよ。」
 「よかった。大切にしますね。ありがとうございます。」
 「ううん。私が壊してしまったのが悪いんだから………。」


 出来上がった眼鏡をさっそくかけて、ニコニコと微笑んでいる。お店のショーウィンドーに映る自分を見ては、嬉しそうに笑っている。まるで、おもちゃを家って貰ってはしゃぐ子どももようだった。
 泉にそんなにもよろこんでもらえたのは、緋色も嬉しかった。
 けれど、休日のショッピングモールは人が多く、彼は目立つ。いくら眼鏡をかけたとしても、空手家の松雪泉だと気づく人をいるようで、ちらちらとこちらを見ているのだ。

 緋色は俯き、彼の手をギュッと握りしめた。

 すると、泉は緋色の異変に気づき、そしてすぐに理由を理解したのか「………ごめん。行こうか。」と呟き、緋色の手を強く握りしめて、足早にその場から去った。