「………なら、別に頑張らなくてもいいのかな。」


 鏡に映る、自分の顔を見つめる。
 泉より5歳も年上の自分。もう31歳になり、若い頃とは少しずつ顔の雰囲気が変わってくる。泉は年齢など関係ないと言ってくれるが、年上である緋色は気にしてしまう。

 それに好きになって貰えるように頑張る、とも彼は言ってくれた。けれど、緋色は頑張って好きになるものなのだろうか、と思ってしまうのだ。


 「ダメね…………。気持ちが弱ってしまう考え方をしてしまうのは。」


 ため息をついて、緋色はまたワンピースを手に取った。紺色の生地に、色鮮やかな糸で刺繍をされている花柄のワンピースだ。
 緋色はこのワンピースが気に入っており、大切にしていた。


 「自分のために綺麗にするのも大切だよね。自信をもって会うために。…………そして、好きになって貰えて、好きになるために。」


 泉の言葉を思い出すと、心が軽くなり表情が明るくなった気がした。
 さっそくワンピースに着替えて、メイクや髪型をいつもより丁寧に行った。持ち物もしっかり確認した頃に時計を見ると待ち合わせより少し早い時間になっていた。