それもそのはず。

 緋色は、父親が用意したお見合いに付き合わされているのだ。30歳を超えてしまった緋色が恋人もいない事から、縁談を持ってきたようだった。
 けれど、父親は小さな会社の社長でもある。きっと、会社のためのお見合いでもあると思うと、父親に一言文句を言いたくぐらいだった。


 それに、緋色は父親が嫌いだった。
 母親を亡くした後、緋色を育ててくれた事には感謝していたけれど、大学を卒業した後すぐに家を出たのだ。


 「………男なんて、みんな信用できないわ。」
 「………え…………。」


 聞き役だった緋色が、突然小さな声で何か呟いたので、向かい側に座っていた男性は、驚いた表情で緋色を見つめていた。
 緋色はハッとして、「すみません。何でもありません。お話しの続きを聞かせてくれませんか?」と、表情を笑顔に戻し、また男の話しを聞く役に徹した。




 父親に「今回は断れない縁談だ。」と言われた相手。それは、緋色の父親の会社よりも何倍も大きな会社社長の息子だった。緋色の父とその社長は仲が良いらしく、息子に緋色の写真を見せたところ、「ぜひ紹介してほしい。」と言われたらしい。迷惑な話しだ。


 縁談相手である男は、緋色と同じ年で、真面目そうな人だった。縁なしのメガネをして、髪をかっちりとまとめている。そして、先程から自分の自慢話しかしないのだ。学生の頃の成績やら仕事での実績など、ずっと喋り続けている。
 確かに彼が努力してきた事であり、話しを聞いていると、優秀な事も多かった。
 けれど、写真を見て気になってくれたのならば、緋色の話しを聞いてみたいとは思わないのかな、と考えてしまった。