小さな部屋に、男の人と2人きり。
 そんな経験がなかったので、緋色は鼓動が早くなり、おろおろとして緊張してしまっていた。
 大好きな紅茶の準備をしながらも、彼の気配を感じては気になりすぎて間違えそうになってしまっていた。


 「ど、どうぞ………。あのお菓子とかはあんまり良いものがなくて。」
 「気を使わなくていいですよ。」


 ソファに座っていた泉の前に紅茶とお菓子を置いて、緋色は彼の隣である床に座り込んだ。すると、泉は「そんな所に座ってないで、隣に座ってください。」と、苦笑しながら言ったので、断るのも悪いと思い、緋色はドキドキしながら彼の隣に腰を下ろした。
 一人暮らしの、部屋にあるソファのため。そこまで大きな作りにはなっていない。そのため、緋色と泉の肩が触れてしまいそうになるほどに一気に近くなり、緋色はすぐに体が熱くなった。

 気を紛らわせるために、自分のカップの紅茶を飲もうと手を伸ばすと、何かが頬に微かに触れたような気がして、緋色はちらりと横に視線を向けた。
 すると、泉が緋色のストレートの黒い髪に触れていたのだ。指で大切なものに触るように、優しく触れている。


 「………え………。」
 「………緋色さん、何か期待してるのかなーって思って。触ってみました。」
 「き、期待なんかしてません!」
 「だって、さっきからそわそわしてて落ち着きないので。」
 「それは緊張しているだけです。ここの家に男の人が来たこともないですし、その………たぶん男の人と2人きりになった事もないので。」
 「…………そうなんですね………。」

 
 30歳を過ぎて男の人にも慣れていないなんて、バカにされたり、珍しがられたりするのかと思っていた。
 けれど、泉の反応は全く違うものだった。