秋の高い晴天の下、緋色と泉は手を繋いで歩いていた。道路に敷き詰められた落ち葉を踏んで歩くとサクサクッと音がする。秋の音だ。


 「今度また白碧蒼の本を書こうと思ってるんだけど、次は………」
 「だ、だめだよ!私は白碧蒼さんのファンなんだから、新刊になってから本屋さんで買うまで内容は知っちゃだめなの!」
 「えー。誰よりも先に読めるのに?」
 「う………だ、だめ!」
 「じゃあ、サイン付けてあげる」
 「え、本当に!?じゃあ、少しだけなら………」
 「ははは。本当に好きなんだねー」


 緋色の返事に、泉は楽しそうに微笑んだ。
 いつもと同じ穏やかな時間。
 けれど、今までとは少しだけ違う。
 
 前よりもずっとずっと彼が大好きで、愛しくて、大切になった。
 幼い頃、赤ちゃんだった彼を見て、緋色は可愛いと思うと同時に何故か「守らなきゃ!」という使命感が芽生えたのだ。
 こんなにも小さい赤ちゃんが両親を知らずに施設に来たのだ。誰かが支えなければ、可哀想だと思った。
 両親の代わりにはなれない。ならば、せめてお姉ちゃんになろう。そう思った。

 今思えば、自分の寂しさや悲しさを癒すために、泉の世話に没頭したのかもしれない。
 それでもよかった。
 大切な家族が出来たのだから。

 そして、今では本当の家族になった。
 運命というのは不思議なものだなと緋色はしみじみと感じていた。


 「緋色ちゃん?どうしたの、ボーっとして」
 「ん………少し考えてたの」
 

 考え事をして黙り込んだ緋色を心配して、泉は顔を覗き込んだ。
 緋色はにっこりと微笑む。


 「もし、本屋さんとか司書さんになれたらね、白碧蒼のコーナーを作るの!一つ一つの物語にポップとかでおすすめを書いて、お客さんに「白碧蒼さんの物語は素敵です!」って、伝えたいなーって考えてたの。どうかな?」

 緋色が自分の夢を語ると、泉は少し照れながら「それは嬉しすぎるかも。楽しみだよ」と、微笑んでくれた。

 
 少し先の未来を考えて、幸せな気持ちになれる。それがとても贅沢な事のように感じてしまうけれど、当たり前にしていきたい。


 そのために、2人が支え合って生きていくのだ。

 「泉くんは前回の空手の試合出れなかったから、次こそは優勝だよね!」
 「俺が出れば優勝するよ」
 「ふふふ。さすがだね」


 緋色と泉は笑い合い、2人の家へと帰っていく。

 繋いだ手はもう離される事はない。
 嘘つきだけど優しい彼も共に、緋色は昔も今もそしてこれからも歩き続けるのだ。



             (おしまい)