恋人の前で男が泣くなんて、恥ずかしい事かもしれない。
 今の言葉で泉の今までの嘘をついていた日々、待っていた時間が報われたような気がした。


 そんな彼を先ほどまで抱きしめられていた緋色が今度は抱きしめた。



 「ゆっくりと昔の記憶を話し合おう?私が知らない事とか、忘れてしまっていた事を教えて欲しいの」
 「うん………でも、体は大丈夫?事件もあったばかりだし、記憶だって………」
 「大丈夫だよ!だって、今が1番幸せなんだよ?昔の事も思い出して、ずっと泉くんが私を好きでいてくれたってわかって、夫婦になれたのも忘れないで済んだの。こんな、幸せなことあるかな?」
 「………あぁ、俺も幸せだよ。君に何も隠すことなく全て話せる。昔からずっと好きだったって事も。」


 泉はそういうと、緋色を愛おしそうに目を細めて、緋色の頬に触れる。緋色は彼のくすぐったくなりながらも、もっと泉に触れてほしくて、その手を自分の手で包んだ。


 「私も大好きだよ。泉くんの事が、ずっと大切だった。」
 「うん………」


 2人はゆっくりと目を閉じて、唇を寄せ合い何度もキスをした。
 2人が恋人になれなかった時間を取り戻すかのように、その日は何度も何度もキスを重ね、体をベッドに沈めた。

 「初デートと2回目の初デートが同じ洋服で嬉しかった」とか、「もう1度君が好きになってくれるか不安だった」とか、泉からはいろいろな事を聞いた。その度に、緋色は彼に愛されていると実感出来た。

 彼を全身で感じ、熱が冷めるまで話しをして、また、キスをして体を温め合う。

 そんな、彼との幸せな戯れは、夕方になっても続いていたのだった。