「………だがら、作家活動を辞めていたの?」
 「………空手とボディーガード、そして作家活動の3つの顔はさすがに難しいからね。今は休業する事にしていたんだよ」
 「そっか………作品が止まっていたのは、私のせいだったんだ」
 「………落ち込まないで。休んでいる間に良いシナリオを思いつたから、ね」
 「………うん。ありがとう」


 緋色は困った顔を見せながら、素直にお礼を伝えた。



 「君がお見合いをする事になったのは、本当にたまたまでね。でも、君が幸せになるのならば、それでもいいかもしれないって思っていたんだ。俺は、君の過去に関わりすぎているから、事件の事思い出して辛い思いをするなら、他の人と幸せになってずっと、忘れていたほうがいいって思っていた。…………思うようにしてたんだ」


 泉は、遠くを見つめながら思い出を語り続けた。その時の泉の気持ちを知れるのは、緋色はとても嬉しかった。自分が知らない彼を知りたい。大切な人の事をそう思ってしまうのは当たり前の事だろう。


 「だから、お見合いの時も、君を守るために店先で警護をしていた。本を読むふりをして、店に入る人を見張っていたんだ。そしたら、君が僕のところに飛び込んできた。久しぶりに間近で見る君はとても綺麗で、すぐに目を奪われた。そして、緋色ちゃんに触れてしまったら、気持ちが溢れてきたんだ。君を誰にも渡したくないって。………だから、君を連れ出してその場から逃げた。そして、結婚を持ちかけたんだ。…………ネタにしたいなんて嘘だよ………。君には沢山嘘をついてきた。緋色ちゃんを守りたい、一緒に居たいと思って、嘘をついてきたけど、本当にそれでよかったのか………ずっと悩んでいたんだ。」
 「………泉くんの嘘は、全部温かいね」
 「え………」
 「全部、私の事を思って嘘をついてくれた。それって、すごく愛を感じるものだと思う。確かに、私が思い出したくない過去を教えてほしかったとか、乗り越えたかったとは思う………けど、きっと泉くんの愛を沢山感じられている今だからこそ、昔の辛いことを乗り越えられたんだって思うの。………だから、泉くんが辛い嘘を沢山ついてくれた事。そして、ずっとずっと私を、待ってくれた事。本当に嬉しいよ。…………ありがとう。私、ますます泉くんが好きになった」
 「緋色ちゃん…………」