35話「優しい嘘」





  ☆☆☆



 「そうだったよね………ごめんね。何回も忘れてしまって………そして、何回も助けてくれてありがとう」


 泉の話しを聞きながら何度も、監禁された記憶を思い出しては震えていた。
 その度に、泉の腕の中で彼の香りと優しい鼓動を聞いていく内に、落ち着きを取り戻してきた。

 話しを聞きながら、緋色は何度も謝り、そして涙を流した。瞳も目元も、頬を真っ赤にして、泣き続けた。記憶をなくしていた時を取り戻すかのように。


 「施設で緋色ちゃんと離れた時からずっと決めてたんだ。君を守ろうって。だから、養子になるのも全部断り続けてたんだ」
 「そんな………」
 「どんな家庭に行くかわからないだろ。緋色ちゃんの家と離れた所に行くかもしれないし、婚約者が居るところかもしれない。………だから、自由になれるように施設に居続けたんだ」 「…………ありがとう。泉くん………」
 「ううん。俺が小さい頃不安だった時、君が守ってくれた。そんな緋色ちゃんに憧れて、恋をしたんだ。………緋色ちゃんにまた愛してもらえて良かったよ」


 泉は彼女の目にそっと触れて、涙を拭く。真っ赤な瞼はとても熱くなっていた。