「いやっ………離して下さい…………お願いします………帰してください」
 「緋色、ちゃん…………」


 あまりの恐怖からなのか暴れることもせずに、彼女はただただ震えた声で、謝りながら離してほしいと訴えている。
 今、誰が自分を抱きしめているのかもわからないようだった。


 「緋色ちゃん、俺だよ………泉だ、落ち着いて………」
 「いずみ、………くん…………?」
 「そうだよ………。もう、大丈夫だ。安心して」
 「あ、わ、私…………また、あの人と………いや………もう、思い出したくないよ………でも、でも」
 「またって………昔の記憶を思い出したのか?」


 緋色の瞳は激しく揺れていた。
 そして、頭を抱えながら、何かをブツブツとしゃべりながら震え始めた。

 緋色は昔の記憶を思い出しているようだった。また誘拐されたことで、フラッシュバックが起こっているのかもしれない。
 

 「緋色ちゃん。ゆっくり呼吸をして。俺はここにいる………」
 「や、こわいよ……もう見たくない。こんなのもう思い出したくないよ。やだやだ…………忘れたいよ」
 「緋色ちゃん………」
 「でも、忘れたくないの…………泉くんとの思い出………」


 緋色は泉に抱きつき、泉の顔を見つめていた。涙を流し、呼吸を荒げながら、必死に泉を見つめていた。