「緋色ちゃん………俺がついていながら………何やってんだ………浮かれてこんなヘマをするなんて」


 泉はギュッとハンドルを握りしめて、怒りと焦りを感じながら言葉を洩らした。
 先ほどから、小刻みに体が震えている。
 怒りでこんなにも感情が高ぶっているのは始めての経験だった。

 先ほどまで自分の目の前に居た彼女は、新しい夢を語り、楽しそうに微笑んでいた。
 それなのに、今はどこで何をしているのかわからないのだ。

 
 だが、泉は確信していた。
 また、あの彼女を監禁した男が、緋色を見つけたのだ、と。
 監禁犯には支援者がいたようで、すぐに高級マンションに住むようになっていた。それは、望が探偵を雇い調べさせた情報だった。
 そして、泉はいまそのマンションがある方向へと車を走らせているのだ。

 また、彼女が怖い思いをしている。
 記憶までなくして、やっと忘れてきた辛い思いをまた経験しようとしている。
 それを思うだけで、泉はワナワナと怒りが大きくなっていく。
 そして、自分の無力さを感じ情けなくなる。


 「無事に居てくれ………お願いだ………」


 祈る思いでまっすぐと前を見る。
 キラキラとした夜の街が、流れ星のように過ぎ去っていく。
 泉は彼女を思い、アクセルをまた強く押した。