泉は自宅に帰り、お風呂に入りゆっくりと体を温めた。その時に試合のイメージを膨らませた。何度も優勝している大会だ。いつも通りにすれば勝てるだろう。けれど、何があるかわからないのが本番というものだ。
 泉は早めに寝て、いつものように朝のトレーニングをしよう。そう決めて、風呂場から出た。

 水分を取りながらリビングに戻る。
 すると、スマホが点滅しているのがわかった。緋色からのメッセージだろうと思い、泉は頬を緩めながらスマホを持った。


 すると、着信の通知が何件も入っている。
 ボディーガードからだ。
 それを見た瞬間、泉は一気に頭が真っ白になった。
 何かがあったのだ。彼女の身に緊急事態が起きたのだ。


 すぐに電話を掛け直すと、ワンコールで相手が電話を取った。


 『松雪さん!大変です………!』
 「何があったんだ?」
 

 ボディーガードの男が大きく息を吐いて落ち着かせた後に、重い言葉を落とした。



 『緋色さんが、何者かに連れ去られたようです』


 その言葉を理解するのに、いつもより時間がかかってしまったように感じた。
 ぐにゃりと空間が歪んだように感じ、泉はめまいを感じた。



 「緋色が…………」



 泉の頭の中には、先ほど別れた時の、微笑む彼女の顔が浮かんでいた。