33話「新しい夢」



 緋色を人形として好み、誘拐した男が動いているらしい。そんな話しを耳にしたのは、少し前だった。ボディーガードを普段よりしっかりとつけ、泉も彼女を守るように外出する時は、周囲を警戒していた。

 そんな時に、白碧蒼の新作の発売や空手の大きな試合などが重なり、泉は多忙となった。
 
 恋人になってから、「白碧蒼の新刊出るんだって!泉くんは好き?」と聞かれ、迷いながらも白碧蒼は自分だと告げると、緋色はポカンとした後、「すごい!!本当に、すごいね………あんな壮大で魅力的なお話を書いているなんて」と、半泣きになりながら褒められた。
 その言葉を聞いて、泉は「彼女のために作家になってよかった」と心から思えた。

 白碧蒼の物語を彼女が知っているかはわからなかったけれど、それを自分で聞くのは怖かった。もし、知らなかったり好みの物語じゃないと言われたら、ショックを受けるどころではなかったからだ。
 なので、緋色に褒めてもらえて、喜んでもらえた事が何よりも報われた瞬間だった。


 空手の大きな試合も順調に勝ち進み、本線の大会が明日行われるという前日。
 天気も悪かったので、泉の自宅でデートをしていた。自宅で映画を見て、彼女の作った料理を食べる。何とも幸せな時間だった。十分にリラックス出来た。
明日の試合は、彼女も応援に来てくれる事になっていたので、絶対に優勝しようと意気込んでいた。