「………少しお話とか出来ませんか?その、あなたとお話がしたくて。その……ファンタジー小説好きの友人もいないし………その、気になった………ので………よかったら、いかがですか?」


 女の人に自分から声など掛けたこともない泉にとっては、かなり勇気がいるものだった。
 しかも、ずっと会いたくて、その事ばかり考えて来たのだ。
 緋色の恋人になる事が前提で支えられる人になろうと努力してきた。けれど、彼女の拒まれたら全て水の泡だ。それはわかっていた事。もし、恋人が居たのならば奪い取るつもりだったし、いないにしても絶対に振り向かせるつもりでいた。それなのに、本人を目の前にするとやはり緊張してしまう。




 知らない男性からの突然の誘いに、緋色は戸惑っているようだった。


 当たり前の事だ。
 今回だけで振り向かせる事が出来なくても、何度もこの図書館に通うつもりだった。


 「………ごめんなさい。今日は、その難しい……です」


 案の定、彼女は泉の誘いを断ってきた。
 泉は少しガッカリしながらも、彼女に自分の名刺を渡した。空手家としても名刺だった。裏には、オフ用の連絡先も書いてある。


 「そうですか。………俺、ここに通うので、また会ったら誘います」
 「え………」


 緋色は戸惑いながら、名刺を受け取った。そして、泉の言葉に驚いた顔をして、見ていた。


 「俺、諦めませんから」


 そういうと、泉は逃げるように彼女の前から去った。
 きっと、彼女にとってはどうと言うことのない出会いだろう。あんなにも魅力的な女性なのだ、きっと声を掛けられる事は多いはずだ。

 けれど、他の男とは違う事を彼女にわかってもらおう。緋色はそう決意して、まずは緋色に出会えた事を喜ぶ事にした。


 この日が運命を変えたと言っても過言ではないぐらいに、泉にとっては大切な日となった。


 泉はまた、緋色に恋をしたのだ。