31話「初恋からのスタート」




 幼い泉が決心をした日から月日は流れた。

 心配をしていた望から時々連絡があったけれど、泉からは連絡する事はなかった。
 緋色は大人になっても記憶を取り戻す事はなかった。
 そのせいか、恐怖の体験を忘れ生き生きと生きているようだった。
 けれど、彼女にはトラウマもあると聞いた。時計の音と、キャンドルなどの小さな火を見ると、パニックを起こすと言う。それを緋色は自分でも不思議と理解しており、そういう物が置いてある場所に行くのは避けるようにしていると聞いた。

 そして、緋色を誘拐し監禁した男は、若くして企業経営者になった男だった。その男は、緋色を「人形」として好んでおり、施設にいる時から何度も訪れ、養子にしたいと言っていた。
 けれど、若さや昔の素行の悪さ、未婚などから養子をとることは出来なかった。それを知ってから度重なる嫌がらせを施設にもしてきていた。

 そんな男が、緋色が他の家庭の養子になったと知り、誘拐を企てたのだ。
 緋色の事を女性として見ているわけではなく、鑑賞して楽しむ人形として育てたかったようだ。そのため、暴力を性的行為はなかった。
 けれど、男が居ない時は真っ暗な小さな部屋に閉じ込められていた。そして、帰ってくれば着せかえ人形のように服を着せられ、豪華な椅子に座るよう命じられた。一切しゃべる事や動く事を禁じられていた。
 緋色が声を出してしまった時に、その男性は大きな声で怒鳴ってから、緋色は怖くなりその男に従うしか出来なかったのだ。

 結果として、その男が住むマンションの住人が異変を感じて通報した事で、緋色を見つける事が出来た。監禁行為をする前から変わった男だと思われていたようで、彼が子ども用の服を購入したり、それをクリーニングに出していたり、大きなバックに緋色を詰め込んで外出しているのを見られていたようだった。