本当は、今すぐにでも会いに行きたかった。
 しかし、会ってどうすればいいのだろうか。
 彼女が泉を見た事で記憶を取り戻し、そして苦しんでいるのを助けられるのか。彼女の辛い経験を乗り越えられる方法を知っているわけでもない。そして、彼女の傍にずっと居られるわけでもないのだ。
 泉はまだ幼い。そして、年上の緋色もまだ大人ではない。泉は10歳で緋色は15歳だ。
 
 泉は自分の無力さを感じてしまった。
 そして、望の言った通りにするしかないのだと思った。


 その日の夜は思いっきり泣いた。
 彼女の事を思い、そして何も出来ない自分の弱さが悔しかったのだ。


 そして、その後は自分はどうすればいいのか考え続けた。
 彼女を守るためには、どんな大人になればいいのか。

 まずは、今まで通り勉強を頑張る事にした。勉強をして、彼女を支える知恵をつけたかった。そして、苦しまないような生活をさせてあげるためにも、お金を稼げるようになりたいと思った。
 そして、次は力でも強くなろうと思った。緋色を守るために、施設のスタッフに頼んで空手を教えてもらうことにしたいのだ。スタッフの中には空手をやっているものがいたため、毎日稽古をして貰うことにして、体を鍛えようと思ったのだ。いつか、彼女に危険が迫った時に守れるようになりたかった。

 最後にもう1つ。
 緋色に笑顔が戻ってくるように。もし、記憶を取り戻しても楽しみが見つけられるようにと、泉は彼女が好きなファンタジーの小説家になろうと決めた。勉強や稽古の合間に、何作もの物語を作った。初めは文章を作るのに苦戦し、そして飽きてしまったりもした。けれど、毎日欠かさずに少しずつ物語を作っていくうちに、書いていくのが楽しくなっていった。
 いつかは本を作って、彼女に見せよう。そして笑ってもらおう。そう思った。

 そして、泉が大人になって彼女を支えられるぐらいに成長した時に、緋色に会いに行こう。
 泉はそう決心したのだ。


 それまでは、緋色に会わないと心に決めた。