「あなたの名前を聞いても?」
 「え…………。あの、私の名前、呼んでいませんでしたか?」
 「あぁ……緋色さんであってましたか?追われてる人が名前を呼んでいるのが聞こえたので。」


 彼が緋色の名前を知っている理由は呆気なくわかってしまった。
 けれど、緋色はまだ疑問に残っていた。
 彼とぶつかり、名前を呼ばれる前にお見合いした音が自分の名前を呼んだだろうか。
 緋色はそれがまた不思議であり、謎に思えた。


 「私は楪緋色と言います。」
 「緋色さん、ですね。俺は26歳なので、きっと年下ですよね。泉と呼んでください。」
 「呼び捨てなんて………それに、まだ結婚の話しは終わってないですよね?」
 「俺はしたいと思ってますよ。」
 「…………そんな………。」


 はっきりと泉の気持ちを伝えられて、緋色は動揺してしまう。どうして、ネタのためにそこまで結婚したいと思うのか。普通ならあり得ない事のはずだ。

 困った顔をして彼を見つめていたせいか、小さい子どもをあやすかのように、泉は緋色に優しく微笑みかけた。


 「理由は何であれ、あなたが気になったのは事実です。突然ぶつかってきた着物のお姫様のような人が助けを求めてくるなんて、運命的ではないですか?」
 「お姫様………。もうそんな歳ではないですよ。」
 「年なんて関係ないですよ。緋色さんは、十分に魅力的な女性です。でないと、手を繋いで一緒に逃げて、助けたいなんて思わなかったかと。」
 「…………上手ですね。」
 「本心ですよ。」

 
 ネタのために結婚を申し込んだと思ったら、お姫様や運命だと言ってくる。やはり、不思議で少し変わった男のようだった。