30話「別れの決心」




 泉がその事件の話を聞いたのは、しばらく経ってからの事だった。
 施設の人達は、泉に黙っていようと思ったらしいが、望がどうしても泉にだけは伝えて欲しいと頼んできたようだった。

 そして、個別に電話がかかってきたのだ。
 その日、夜に楪家の人から電話がくると聞かされていた泉は、緋色からの電話だと思っていた。そのため、朝からドキドキしてその時間が早く来ないかと心待ちにしていたのだ。

 彼女と離れてから数年しか経っていなかったけれど、生まれてから彼女の声をこんなにも長く聞かなかった事はなかった。そのため、寂しくなってしまっていた。しかし、その気持ちを勉強にぶつけていたため、成績がぐんっと上がったのだ。その頑張りを緋色に伝えようと思っていた。きっと、緋色は「すごいね!」と、嬉しそうに褒めてくれるはずだ。

 朝からニヤニヤしてしまっていた泉は、友達にも「何にやけてんだよ」と、からかわれてしまったぐらいだった。

 けれど、その期待は一瞬で崩れてしまった。