「何話してたの?」
 「べ、別に…………」
 「そう………」

 泉はつい、切り捨てるような口調で返事をしてしまい、緋色の声は一気に沈んでしまった。

 ぎくしゃくしたままで別れたくない。
 その気持ちは大きかった。
 けれど、別れを受け入れられないまま、笑顔を見せることなんて出来ない。泉は、そっぽを向いたまま、そのまま彼女が行ってしまうのではないかと思い、強く目を瞑った。

 その時、先程望と話した言葉が頭をよぎった。「彼女に優しくなれる力」。それはどんな力だろうか。少し考えて、幼い泉は彼女が笑顔になる事じゃないか、と思った。

 きっと、このまま挨拶もなしに別れてしまったら緋色はきっと悲しむだろう。
 それはすでに望との約束を破ったことになり、緋色と恋人になる事は出来ないのではないか、と思った。

 泉は恥ずかしい気持ちを必死押し殺しながら、ちらりと彼女を見ると緋色はシュンとしたままうつ向いていた。