29話「出会いと別れ」




 楪家の養子に決まった緋色は、皆から祝福されていた。
 楪家は大きな家や会社を持っている事、そして望や茜が何回も施設を訪れ、いつも優しく接してくれる人だと知って、子ども達は羨ましがっていた。

 緋色は「みんなと離れるのは寂しい」と言っており、困ったように苦笑していた。


 それを聞いて1番ショックを受けていたのは泉だった。
 実の姉のように慕い、憧れていた緋色が自分の前から居なくなる。それが信じられなく、そして到底受け入れられない事だった。

 その日から、緋色と過ごしていても上手く笑えなくなり、わざと彼女を困らせたり、無視したりするようになってしまった。
 それを緋色は、悲しそうにしているのを泉はもちろん気づいていたが、どうしてもそんな態度しか取れなかった。

 
 そして、あっという間に別れの日がやって来た。
 緋色はいろいろな手続きがあるのか、先程から自室だった空っぽになった部屋にはいなかった。
 最後ぐらいは顔を見たいと思ったけれど、どんな顔をして会えばいいのかわからずに、泉は庭でただボールを蹴っていた。


 そんな時、緋色の父親になる望が、1人建物から出て来たのだ。泉は、望を見つけると怒りを感じ、咄嗟に彼に向かって駆け出した。

 あいつが緋色を選ばなければ、緋色と泉は離ればなれにならなかったはずだ。
 あいつが緋色を選ばなくても、俺が彼女を幸せにするつもりだったのに。

 そんな子どもっぽい考えのまま、泉は望の正面に駆け込んだのだ。