「………ぅん…………」


 緋色が髪に触れていたのがくすぐったかったのか、ベット脇の床に座り込んだまま寝てしまっていた泉の瞼が小さく震えた。

 そして、ぼんやりとした目で緋色を見た後、ハッとして「緋色ちゃん!」と、飛び起きた。


 「………よかった、目覚めてくれて。体調は大丈夫?どこか辛いところはない?」
 「うん。大丈夫だよ………心配してくれてありがとう。」


 穏やかに微笑む緋色を見て、少し意外そうにしながらも、泉は安心した様子で緋色を見ていた。


 「よかった…………男に襲われたって、聞いただけでも心配したのに、記憶まで戻ったなんて。一気に昔の記憶が戻ったら辛いだろ?………それに、あの事も………」


 泉の表情が暗くなる。彼がいうあの事というのは事件の事だろう。
 確かにその事を思い出すだけで、今でも震えが止まらなくなり、また泣いてしまうかもしれない。
 けれど、思い出したのはそれだけではない。温かい記憶もあったのだ。

 緋色はそれを彼に伝えたくて、いつもの笑顔のままで泉に話しかけた。