「ん…………」


 緋色が眩しさを感じ、ゆっくりと目を開ける。すると、見慣れたいつもの天井があった。
 薄いレースのカーテンからは穏やかな光が差し込んでいる。そして、夏の匂いと共に、ピンクシュガーの香りも鼻に入ってくる。
 泉の香りだ。


 緋色は、ゆっくりと体を起こす。
 すると、自分の手が何か掴まっているのがわかった。そちらを見ると、そこに緋色よりも大きくてゴツゴツした手が緋色の手を握りしめていたのだ。その手の正体は、もちろん泉だった。


 「泉くん…………」

 
 緋色はそう呟くと、体を起こして彼の髪に触れる。ふわふわとした彼の癖っけで柔らかい髪に触れるのが、緋色は好きだった。
 泉は「年下扱いされてるみたいだね」と、あまり嬉しくはなかったようだが、緋色は少し残念だった。


 「気持ちいい………」


 そう呟いて、思わず微笑んでしまう。
 彼がずっと見ていてくれた事を思い出し、緋色は不思議な気持ちになっていたけれど、これだけはわかった。

 彼がいなければ、自分は記憶を取り戻しても微笑む事はなかっただろう。緋色はそう思った。


 「………ぅん…………」