「昔、事件があってその恐怖から記憶を失っているんです。………今まで忘れていたはずなのに。きっと、襲われた事がきっかけでフラッシュバックが起こったのだと思います」
 「なるほど………今は事情聴取は無理そうだな。身元確認と連絡先だけ聞いていいですか。夫婦だと確認後に帰宅してもらっていいので」


 椋は立ち上がり、本部に連絡をし始める。


 「緋色………大丈夫だから………」
 「泉くん………わ、私………」
 「うん、ゆっくりでいから。何か痛いところでもあるのか?」


 緋色の震える手を、泉や優しく握りしめながら、ゆっくりと緋色の肩を抱き背中をさする。
 はーはーっと呼吸をし、涙を流し続ける緋色を見て、あまりの痛々しい姿に、悔しさを滲ませていた。

 緋色は、ゆっくりと、そして小さな声で泉に向けて言葉を発した。


 「泉くん………私、思い出した………の。昔の私に何があったのか…………」


 ボロボロと涙をこぼし、口元を歪ませてそう言った緋色を、泉は目を大きくして驚いた表情で見つめた。


 「ごめんなさい………泉くん」


 緋色は少しずつ意識が遠退いていくのがわかった。けれど、それだけは彼に伝えなければ。
 
 彼を見つめた、そう言葉を残した後。

 緋色はまた目を閉じたのだった。