27話「思い出した君」





   ★★★



 何故追いかけないのか。
 早く彼女を追いかけなければいけない。
 そう思っているのに、泉はその場に立ち尽くしていた。

 緋色の言葉が頭の中でぐるぐると響いてきた。

 いつかはバレてしまう事だった。
 必死に隠していても、彼女に嘘をついていても、ボロが出てしまう。
 きっと一緒に暮らしていく中で、不可解に思っていた事も多かっただろう。それでも、緋色は泉を信じてくれていた。
 記憶のない彼女が誰かを信じるというのは、どんなに勇気が必要だっただろうか。

 そして、彼女に信頼されている証でもあったはずだ。


 それを泉は裏切ったのだ。
 嘘をつき、必死に秘密を隠していた。
 彼女に知られたてしても、彼女がまた苦しむのなら…………と、話すこのは出来なかった。


 「本当に彼女はそれを望んでいるのか…………?」