「もう、どうすればいいんだろう………。」


 帰る家もなく、ただ歩いていく。 
 緋色が目指したのは、先程来た明るい街中だった。ここなら人はいる。
 今は静かなところよりも、ザワザワしたところにいたかった。
 うろうろと夜の街を歩き、緋色ははーッため息をついた。
 ヒールを履いた足は、悲鳴をあげている。どこかで休憩しなければ、倒れてしまいそうなぐらいフラフラになっていた。


 「今日はホテルに泊まればいいかな」


 緋色は会社用の鞄は持っていたため、財布もしっかり入っている。
 今日はホテルに泊まろうと決めて、そこまでは頑張ろうと、近くのホテルを探しに歩き出そうとした時だった。


 
 「お姉さん。さっき、香水のお店から出てきた人だよね。また、ここに居るなんて………お疲れなのー?」
 「え………」


 後ろから声を掛けられて、振り向いた途端、肩を組まれてしまう。ハッとしてその相手を見ると、若い知らない男性だった。
 髪は銀色に染めており、細い体をしていた。けれど、やはり相手は男性だ。緋色を引き寄せる力は強かった。


 「あの………離してください。」
 「あの店で何買ったの?薬でしょ?気持ちよくなれるやつ。1回じゃ足りなかった?」


 どうして、香水の店の話をしているのか。薬とは何なのか。緋色にはわからなかった。
 けれど、緋色は周りを確認してハッとした。そこは、先程来たばかりの香水の店の近くの路地だった。ホテルを探しているうちに、また同じような場所に来てしまったようだった。