「ひ、緋色ちゃん………?」


 しかし、2人はそんな事は気にせずにお互いを見つめあっていた。
 泉は、緋色に手を払われて拒絶された事に驚き固まっている。緋色は、咄嗟にしてしまった事とは言え、自分が彼に触れられるのを嫌がっているのに気づき、唖然としていた。


 「ど、どうしたの?一体何が………。」
 「私たち、昔から恋人だったって、本当なの?」
 「っっ…………それを、どうして?ま、まさか、記憶が………!!」
 

 緋色の問いかけに、泉は驚きながらもそれを否定はしなかった。
 やはり、彼は嘘をついていたのだ。
 あの日、初めて会ったわけでも、初めて恋人になったわけでもなかったのだ。


 「杏奈ちゃんっていう人に会って聞いたの。…………ねぇ、泉くん、本当なの?」
 「本当だよ。………俺たちは昔恋人同士だった。」


 彼はあっさりと自分の嘘を認めたのだ。
 緋色は胸がギュッと締め付けられるように苦しくなる。
 きっと、彼には理由がある。
 それを聞けば、きっと嘘の理由を聞けば納得出来るはずだ。
 そう思って、重い口を開いた。


 「どうして、黙っていたの?………嘘をついていたのか、教えて?」


 静かな住宅街の夜道。
 シンッとした空気が漂う。
 彼の答えが怖く、緋色は泉を見つめながら祈る思いで次の声を待った。

 泉は、何度か口を開いた後、少し迷いながらも、力なく視線を反らした。