26話「うそつき」





 トボトボと歩いていると、いつの間にか自宅近くに着いていた。
 電車で通っている距離なのに、気づいたら長距離を歩いていたのだ。緋色はヒールを履いている足が痛くなっている事に今更気づいた。

 歩きながら考えていたのは、もちろん泉の事だった。

 事故に遭う前に恋人だったという泉。
 どうして事故に遭った後に会いに来てくれなかったんだろうか?
 そして、数年経ったあの日に会って、何故結婚の話を持ちかけてきたのだろうか?

 いくら考えても、納得のいく答えなど出なかった。

 わかったことは1つだけだった。
 泉は、緋色に沢山の嘘をついている事だった。

 嘘をついてまで隠したい理由とは何なのか。
 彼を信用したくても、嘘をついていて秘密にしている事が何なのかわかるまで、緋色の心は晴れる事はないような気がしていた。


 「緋色ちゃん!?」
 「………あ………。」


 自宅から飛び出してしたのは、焦った顔をした泉だった。手にはキーケースを持っており、今からどこかへ行くつもりだったのかもしれない。