「そうだったんだー!おめでとう」
 「あ、ありがとう………」
 「緋色ちゃん、職場でも人気あったもんね。可愛くて、優しくて、本の知識はすごいし。私でも惚れちゃいそうだったよ」
 「そんな…………」


 自分の知らない事を、知っている人が目の前にいる。
 それが嬉しくて、緋色は彼女にいろいろ聞いてみたいと思った。彼女なら、忘れている事を思い出させてくれる、と思ったのだ。
 全く記憶がない事を謝罪して、今度話を聞かせてくれないか、お願いしてみよう。
 そう思って、声を掛けようと口を開いた時だった。


 「もしかして、相手は松雪泉くん?」
 「え………」
 「あ、やっぱりー!あの時からすっごい仲良かったもんね。誰が見てもお似合いのカップルだったもん」
 「私………泉くんと付き合ってたの………?」
 「そうだよー26歳か7ぐらいの時だよね。私と同じ年だったし、私が彼氏と別れた時だったから、羨ましいな~って思ってたの覚えてる」
 「…………そうだったんだ」


 そこまで話しをしてくれた杏奈のスマホが音を鳴らした。画面に表示された名前を見て、杏奈は「やばい!先輩からの呼び出しだ。緋色ちゃん、呼び止めてごめんね。まだ同じ本屋で働いてるから、遊びに来てね。今度ゆっくり話そうね!」、と言うと、手を振って小走りで去ってしまった。

 残された緋色は、杏奈の言葉を聞いてただ呆然と立ち尽くすしかなかった。


 「…………泉くんと私が恋人だった………」


 その事実に、緋色の頭はパンクしそうなぐらいに混乱をしていた。