「覚えてる?職場が同じだった杏奈。久しぶりだね」
 「杏奈ちゃん………同僚?」
 「そうそう。本屋で働いてたでしょ?」
 「本屋…………。」
 「もしかして、あの時ので記憶がなくなったって本当だったんだね。大丈夫?」


 この女性は事故に合う前の職場の人なのだとわかった。名前を聞いても、顔を見ても緋色はその事を思い出す事は出来なかった。
 緋色は曖昧に、「うん、大丈夫だよ。ありがとう。」と、紙袋を抱きしめながら返事をしていた。
 すると、杏奈だという女が何かに気づいて、目を大きくして驚いた表情を見せた。


 「え、緋色ちゃんって、もしかして結婚したの?」
 「………う、うん」


 緋色の左手の薬指のリングを見つけたのだろう。杏奈は、「わぁー!」と手を叩いて驚きながらも嬉しそうに微笑んでいた。