「ううん。違うの。うとうとして寝てしまったら、また嫌な夢を見てしまって。起きたいのに起きれなかったから………起こしてくれて、ありがとう。」
 「そっか。ほら、泣いてる。無理しないで」
 「うん………」


 緋色の目尻についた涙の粒を親指で拭い、泉は「ただいま」と頬にキスをしてくれる。緋色も固く微笑みながら「おかえりなさい」と、返事をした。


 「また眠る?寝室に行こうか」
 「もう大丈夫だよ。あんまり寝ちゃうと夜寝れなくなって明日の仕事辛くなるから」
 「明日も仕事休めばいいのに」
 「そんな。もう大丈夫だから」


 心配そうにしている泉に、苦笑しながら答える。彼は自分の事になると、本当に心配性になるなと緋色は思った。

 それはやはり過去の事故の事なのだろうか。
 疑問ばかり残り、自分の記憶がない事が悔しくなってしまう。


 「私がキャンドルとか時計が苦手なの、知っていたんだよね?このお家になかったし」
 「………あぁ、そうだよ。楪さんから聞いていたんだ。事故でそうなったんだって」
 「え………事故で………?」


 泉の言葉に緋色は驚いた。
 事故でそうなったというのは初耳だったからだ。それに、おかしな事もある。
 緋色は不安になりながら、泉に再度質問を返した。


 「ねぇ、泉くん。私の事故って………交通事故だよね?どうして、キャンドルと時計が関係しているの?それに、私はお父様に昔から苦手だって聞いてたの」
 「え…………」


 緋色の言葉に、泉はあからさまに動揺し視線が外れた。
 けれど、それは一瞬の事だった。


 「あぁ。そうだったね。ごめん……楪さんに聞いたのに間違っちゃったよ」
 「あ、そうだよね。………よかった」


 嘘だ。

 やはり、彼は自分に嘘をついているのだ。
 それが悲しくもあり、「どうして?」という疑問が残ってしまう。
 
 彼の言葉は、どこから嘘で、どれが本当なのかわからない。

 緋色は、大切な彼が何を思っているのかわからなくなりつつあった。