「…………蝋燭…………」


 円形のガラスの中でゆらゆらの揺れる火。その店にはキャンドルのぼんやりとした光りで包まれていたのだ。
 それが何かを頭で理解した瞬間、緋色の胸はドクンッと大きく鼓動した。
 そして、体が震え、目の前の視界がぐらりと歪んで立っていられなくなる。
 緋色はふらつきながら、逃げるように後ろへと足を向けようとした。


 「あ…………っっ…………いや…………」
 「お客様?」


 緋色の異変に気づいたスタッフが近寄ろうとすると、緋色は「いやっ…………こわい………」と、ビクッと体を震わせ、手で頭を覆うようにガードした。


 「緋色ちゃんっ?!」


 後ろにいた泉も緋色の異変に気づき、緋色の体を支えながら彼女の顔を見つめる。目の焦点が合っておらず、緋色の顔色は真っ青で、体も小刻みに震えていた。
 泉は咄嗟に店内を見てハッとする。


 「キャンドル…………。お昼に来た時にはなかったのに」
 

 泉はそう呟き、緋色の体を抱き寄せる。
 緋色は自分が今どこにいるのか、誰と一緒にいるのかわからなくなっていた。ただわかるのは、暗闇に光る複数のキャンドル。そして、カチッカチッと鳴る時計の音。その場所に独りで踞っているという事だった。それがどこなのかはわからない。けれど、怖くて仕方がなかった。