22話「夜のお楽しみ」



 少しずつ暗くなる木々や空、そして湖はとても幻想的だった。赤から紫、そして闇に変わっていく姿は、全てが生きているのがよくわかる時間だった。一瞬として同じ景色はない。そんな自然を彼と共に見られることが特別なことのようで、緋色は時々食事の手を止めながらその景色を見つめていた。


 「そんなにここのレストランが気に入った?」
 「うん。………赤紫の夕焼けがとっても綺麗で……宝石みたいな景色ですごく素敵だった。」
 「確かにそうだね。………物語に出てきても不思議じゃないね。」


 彼が本の話をするのは少し意外だった。
 泉は、作家の仕事をしているが今は休んでいるはずだった。けれど、彼が物語を紡ぐのが好きなのは何となく伝わってきていた。
 何故、泉が執筆を止めてしまったのかはわからない。
 緋色もファンとして彼の作品をもっと読みたいという思いは変わらずにあった。


 「もし、書いてくれるとしたら、絶対読むからね」
 「………ありがとう。いつか、そんな日がくるといいな」


 泉は最後に運ばれてきたデザートを見つめた。それは、真っ赤なベリーのアイスで、少しだけ夕日の色に似ていた。

 緋色もそのアイスを一口食べると、甘酸っぱい甘さが広がり、思わず笑みがこぼれたのだった。