左の薬指には、2つの指輪が輝いていた。
 淡い照明を受けて、ほんのりオレンジ色に色づいているように見えた。
 緋色は先ほどからその指輪を見つめては、思わずニヤついてしまう。それを見て、「そんなに嬉しい?」と、泉に問われてしまった。


 「うん。………だって、やっと結婚指輪をつけられたから。嬉しいよ。」
 

 少し照れくさくなりながらも、正直な自分の気持ちを伝える。結婚指輪が出来上がってからも、1度サイズを、確認しただけで結婚式のために大切に保管してあったのだ。そのため、ずっと楽しみにしていた彼とのお揃いの指輪が自分と泉の薬指にあると思うと、幸せで口元が緩んでしまう。


 「………そういう可愛い顔は2人きりになってから見せて欲しいよ」
 「え…………。」


 彼の甘い言葉に、緋色はドキッとしてしまう。

 今は教会の近くにあるホテルに来ていた。
 小さな湖の畔にあるこじんまりとしたホテルだった。外装も内装も洋風でとてもお洒落だ。1つ1つの部屋も大きく、別荘のよう、な作りになっているため人気のホテルだった。
 今は大きな窓から湖が見える、レストランに2人はいた。向かい合って座りながら少し早めの夕食を食べようとしていたのだ。


 「ご飯なんか食べないで、早く部屋に行きたいよ」
 「だ、だめだよ。ここのご飯も楽しみにしてたでしょ?」
 

 緋色が真っ赤になりながら、彼の甘い提案を拒むと、少し残念そうにしながらも泉は「そうだったね」と微笑んだ。

 そして、小さな声で、緋色だけに聞こえるように言葉を残した。



 「夜のお楽しみ、だね」


 色気のある声と、熱っぽい視線を感じ、緋色は落ち着いて食事が出来そうもないな、と思った。