「で、でも………私、こう見えても小さな会社の社長令嬢なんです。……相手を選ばなきゃいけなくて………。」
 「俺は松雪泉。………俺の事、知りませんか?」
 「え………。」


 松雪泉(まつゆきいずみ)。

 その名前を聞いて、緋色の胸がドキンッと跳ねた。
 けれど、緋色はその名前を聞いたこともないし、思い出す事もない。それなのに、どうして名前を聞いただけでドキドキしてしまうのだろうか。不思議な感覚に緋色は襲われていた。


 「聞いたこと、ありませんか?」
 「えぇ……申し訳ないけど、わかりません。」
 「そうですか……俺もまだまだですね。」


 苦笑を浮かべる泉を見て、緋色はどうしてそんな顔をするのかわからずに、首を傾げて返事を待った。すると、少し恥ずかしそうに頭をかきながら、泉は詳しい話しを教えてくれた。


 「俺、これでも有名な空手の選手なんです。テレビでも紹介してもらってるし、世界大会とかにも出てたんですよ?」
 「え、えぇ………そうなんですか?!ご、ごめんなさい。私、全く知らなくて。テレビもあまり見ないので………。」
 「そうですよね。」


 泉は、緋色の反応を見て何故か懐かしそうに微笑んでいた。
 泉が有名な空手の選手ならば、どこかで聞いた事のある名前だったのかもしれない。それで、胸がドキドキしたのか。そう思い少し残念な気持ちになった。


 「空手の選手というのだけではダメなら、俺のお嫁さん候補にだけ、僕の秘密を教えますね。」
 「…………お嫁さん候補ではないんですけどね………。」
 「聞きたいですか?」
 「………気になりはします。」