「綺麗だよ。茜もきっと緋色の晴れ姿を見て喜んでいるだろうな」
 「ありがとうございます、お父様」


 緋色は背筋をピンッと伸ばしたまま、隣に立つ黒いスーツに身を包んだ望の方を見る。やはり、父親の前だと少し緊張してしまう。しかも、今は挙式の前という事もあり、嬉しさとそして寂しさが混ざったほろ苦いコーヒーを飲んだ時のような気持ちだった。
 けれど、望の瞳が少し潤んでいるのを見て、緋色はホッとしてしまった。望も寂しいと思ってくれているのだ、結婚することを喜んでくれているのだ、という事を目の当たりにすると、ジンッとくるものがあった。

 
 「泉くんは、緋色を幸せにしてくれるだろう。安心していい」
 「はい………。お父様が彼を信頼しているのは、昔からの知り合いだから、ですか?」


 望と泉が昔からの知り合いならば、望は彼と自分の繋がりをきっと知っているはずだと思っていた。このタイミングでならば、教えてくれるかもしれない。そんな風に思ったけれど、望は少し苦い顔を見せた。


 「それもあるが………今、目の前の泉くんを信じなさい」
 「はい………信じています」