緋色が彼の寝顔を見つめながら、そんな事を思っていると。先程まで気持ち良さそうにしていた顔が一転して険しい表情になった。すると、小さく声を発した。始めは何を言っているかわならなかったけれど、2回目で「緋色ちゃん………」と名前を呼ばれているのがわかった。夢の中でも自分の名前を呼んでいる。それがわかって、緋色は少しだけニヤけてしまう。
 けれど、次の言葉を耳にした途端、その表情は固まってしまった。


 「緋色ちゃん………俺の事、忘れていいから…………」


 その声と表情はとても悲しげで、緋色の心がざわつくものだった。


 「………泉くん………」



 やはり、あなたは何を知っているの?


 緋色は泉の声がもっと聞きたくて、思わず彼の顔に手を伸ばした。
 緋色の温かい指が、柔らかい泉の唇に触れる。何故そんな事をしてしまったのかわからない。自分でも大胆な事だと思う。けれど、彼の言葉を止めて欲しくなかったのだ。