「………入りすぎたかな。のぼせそうだわ………」


 考え事をしていたせいか、いつもより長い時間湯船に浸かっていたようだった。しかも、まだ気温が高い夏だ。全身が赤くなってしまった。
 ふらふらとした足取りのまま緋色は風呂を出てだぼっとしたTシャツを着る。泉から貰ったもので、「オレシャツみたいで可愛いから。」と、言われた。それ以来、寝るときはなるべくそれを着ていた。やはり可愛いと言われるのは嬉しい。


 火照った体を冷やそうと、お茶を飲もうとキッチンに向かう。すると、そこからリビングのソファで泉が横になっているのを見つけた。

 緋色はゆっくりと彼に近づくと、小さく吐息を洩らしながら、すやすやと寝ている。
 ソファで彼がうたた寝をするなど見たことがなかったので、驚きながらも疲れているのかなと心配してしまう。
 ベットで寝るよう伝えるために、起こした方がいいのはわかっていたけれど、あまりに気持ち良さそうに寝ているので、起こしにくくなってしまう。

 緋色はソファの近くに座り込んで、彼の寝顔を見つめた。
 きめ細かい肌に、整ったパーツが並んだ顔。ふわふわな髪はまるで猫のようだった。寝顔は幼いけれど、起きると自分より大人な彼。
 目の前に居る誰もが「かっこいい」と言う彼が自分の旦那さんというのは、今でも信じられない。
 初めてのデートの時に本屋で見かけた彼が表紙の雑誌を、緋色は後からこっそり購入していた。そして、彼にバレないように本を読んでいると、彼が人気なのがよくわかった。ネットで名前を検索すると専門のHPやファンの非公式のサイトまで見つかった。
 必ず書かれている事は、「彼女は一般人で溺愛している」や「結婚式し今は愛妻家」などだった。恋愛の話になると、泉は「とっても大好きなんです」、「大切な人です」と書いており、緋色は自分の事なのだと思うと嬉しく思いつつも、少し恥ずかしくなってしまっていたのだった。