「杏!今日、帰り、甘いもの食べていこう?」
「うん」

朝と補講が終わった帰り道。
橘くんと過ごすことが増えて
橘くんが隣にいることが当たり前になってきた。

補講が終わって夏休み。
橘くんと予定を立てて
一緒に過ごす。

橘くんの、恋人として。


橘くんは優しいし、私のことを常に大切にしてくれる。

半ば強引に付き合いが始まったという負い目?があるのか、
手を繋ぐこと以外は触れてくることはなかった。

ゆっくりでいいから、好きになって欲しい。

橘くんはいつも私に言う。


気持ちを焦らせることはしない。

そんな、橘くんの優しさに私は甘えている。






夕食も済ませて
明日の補講の予習をしていた時、

コンコン

部屋のドアがノックされた。

「はい」
返事とともに、姿を現したのは、、、


「縁、、」
「今、すこしいいか?」
「う、うん、」


きちんと、縁と話をするのは久しぶりで、
縁とどう会話をしたのか忘れてしまった。


「伊織からチケットもらったと思うんだけど」
「あっ!」

蘇芳くんから預かったチケット!
縁が困るから早く渡さないとと思えば思うほどできなかった。



「ごめんなさい」

通学かばんから白い封筒を取り出して渡す。

「サンキュ」
縁の手が伸びてきて封筒を受け取ろうとした時、
私があまりにも緊張して、封筒を落としてしまった。
「あっ、ごめんなさい」
拾い上げようとしたとき、縁の封筒をつかんだ手にふれた。

触れた手を引っ込めようとした時、逆に引っ張られてバランスを崩して縁の胸の中に飛び込んだ。

、、、、そのまま、次の瞬間には床に押し倒された。

私を見下ろす縁の顔。
両手首をギュッと掴まれて、床に押し付けられる。

「ほかの男のものになるなって言ったのに。」

苦しそうに絞り出すような声。


掴まれた手首が、、、痛い。

「...」
「なんで、約束やぶってんの?」

辛そうな
怒っているような顔を縁はしていた。


「縁、、」

縁はじっと私を見つめ
そして、
私の首筋に唇でふれた。

「!!!!」

首から、左頬、右頬、瞼に額、髪の毛

縁の唇が一つ一つ私のパーツに触れるたび、
体が震えた。

「杏に触れていいのは俺だけだ。」

「縁、手をは」
手を離してと言う前に、唇を塞がれた。

角度を変えて
縁は何回も唇を重ねてきた。

リップ音だけが部屋に響く。

こんな状況なのに、
このまま続けばいいのにって思った。

私は抵抗することなく
縁を受け入れていた。

気がつけば
いつのまにか私は泣いていた。

縁は私の涙を手で拭いて
掴んでいた私の両手を離して、立ち上がった。
フローリングに落ちていたチケットを拾って、
部屋を出て行った。

「ごめんな」

ドアが閉まる瞬間、
縁の小さい声が聞こえた。


「ふぇ、、」

縁が、部屋を出て
さらに
涙が止まらなく溢れてきた。

縁に掴まれた手首が少し、、赤くなっていた。

重ねた唇はまだ、縁のぬくもりを覚えていた。


こんなに体が、震えるくらい
縁を思っている。

自分が溶けてなくなるんじゃないかって言うくらい体が熱くなって仕方ない。

どうしたらよかった?

どうしたらいい?

たまらなく縁が愛おしい。


でも、今更こんな気持ちを伝えることは、許されないような気がした。