「帰んぞ」

お兄さんはタバコを地面にこすりつけると、そう言って立ち上がった。

「あっ…はい…」

慌てて私も立ち上がる。

お兄さんの後ろを、遅れないように早足で歩いた。



言われてみれば

人気のない夜の団地を

一人で歩くなんて危ないと思った。

お兄さんがいてくれてよかった…

なんだろ

あんなに怖いと思ったのに、

ポケットに手を入れて歩く、大きくて強そうな後ろ姿に

心底安心している自分がいた。


105のドアを開けて

「おやすみなさい……」

「もう部屋から出るなよ」

「はい。」

閉めた。


名残惜しいと思ったのは気のせいだと思うことにした…

明日は早く帰るんだし

友達の彼氏の友達のお兄さん。

ましてや

私とはまるで別世界の大人の男の人。
 

多分

もう会うことはない…