時計は19時。

「エアコンつけっぱなしでいいから!」

そう言ってユウキ君達は隣の部屋へ行ってしまった。
目の前にはスヤスヤと眠るナナとマリ。

「ばか〜!!」

結構大きな声で言ったのに、全く起きない…

暇だ…

そうだ!

散歩にでもいこう!

なんせ人の家だから全くくつろげない…

私はジャケットを羽織ってマフラーを巻く。一応預かった鍵をかけて部屋を出た。

「寒っ」

夜は冷える…
当たり前だ…
今日は12月24日クリスマスイブなんだから

16歳のクリスマスイブ…

私、何やってんだろ…(泣)


団地の広場はイルミネーションがキレイで
私はベンチに座ってぼんやり眺めた。。

まだ19時過ぎなのに人気のない広場は、寂しいというより幻想的だった。

団地の窓には明かりがついていて

みんな楽しいクリスマスを過ごしているんだろうなぁ…なんて
思った。


「綺麗……」


明日は早く帰ろう
とか
ピアノの練習もしなきゃなぁ
とか
月曜日は今年最後のレッスンだなぁ…
とか

なんでもないことを考えながら。
ただぼぉ〜っと、
光の景色を眺めていたんだ。








「寒くねぇ?」





幻想的な光の空間が
興ざめする位低くてぶっきらぼうな声にかき消された。

私はその声に、一瞬で現実に戻された。


振り向くと


ユウキ君のお兄さん!!??


黒いダウンジャケットに、グレーのスウェット
金髪はニットでかくれていたけど、左耳のシルバーのピアスが存在感を放っている。


「部屋、いかねえの?」


「………。。」

私は生まれてから今まで、1度も、こういう風貌の人と会話したことがない。

だから

固まるしかない…


こ……怖い……


180センチ以上はある身長と、存在感のある切れ長の二重…

圧倒される。


「あ……はい…
帰ります…
ちょっと…外に出たくなって…」

やっと絞り出した声は少し震えていた。

人の家だから居心地が悪いんです

なんて絶対に言えないよ(泣)


「ここの団地、変なやついっぱいいるから、女が一人でいたら駄目だって!」

そう言いながら、私の隣にドカッと座った。

えぇ〜!?!?

私はパニックになる。

なんかされる?!なんかされる!?(泣)
私、殴られるの!?

お兄さんから離れたいとでも言うように、ベンチの端に無理やり体を寄せた。

「いやいやいや、警戒しすぎでしょ」

そう言うと、お兄さんが私の方へギューッと体を寄せた。

私はベンチから崩れ落ちる。

「おぉー!あっぶねぇ!!」

お兄さんが私の腕を引っ張って、私の体はベンチに戻された。

私は放心状態

怖くて固まって動けない


「ごめん!大丈夫?」

お兄さん、今度は私と距離をとってベンチに座り直した。
固まっている私を心配そうに見ているから、


ちょっと安心した


「あ…大丈夫です…」

そう言うのが精一杯です(泣)

シュポッ

チラッと見ると、タバコに火を付けたお兄さんと目があった。


ドキッ

慌てて目をそらす。

心臓がとんでもなく大きな音をたてた。


「………名前教えて」

お兄さんが無表情でそう言った。


「あ…新井…和美です…」

「ユウキとタメ?」

「はい………」


「ふぅ〜ん…俺、小田修司。21」

そう言って、お兄さんはまたタバコを吸い込んだ。



………。


………。


それから

お兄さんは黙ってタバコを吸っている。

私はもちろん固まったまま。

これから何が起こるの!?なんでこの人と並んで座ってるの?!
なんて

頭の中はパニックだけど
わかるはずもなかった。


プルルルルル プルルルルル

お兄さんのおしりのポケットから着信音が流れた。

タバコを左手に持ち替えて、ポケットからスマホをだすと

「もしもーし…」

テンション低!!

思わず心の中で突っ込んでしまうくらいやる気のない声で
電話に出た。



「……今無理。今日無理。はぁ??無理無理。だから、無理だって。」

無理多すぎ!
私はまた心の中で突っ込んだ。

お兄さんはひたすら「無理」を連発して電話を切った。

クスッ

思わず笑ってしまった。


まずい!


私はお兄さんをチラッと見ると、


「やっと笑ったな」

タバコを空にむかって思いっきり吐き出した。

「えっ?」

「お前、ビビり過ぎ!」

そう言って優しく笑うお兄さんと目が合う。

今度はしっかり目が合った。



ドクンッ!

心臓が大きく鳴って

今まで感じたことのない感情が湧き上がってきた。

ドキドキが止まらない。

なに?なに?なにこの気持ち?!

わたしはすぐに目をそらして

うつむいた。