魔法に囚われて〜誘拐されて溺愛されてます〜

目を閉じ、風の音に耳をすます。そうしていると、ドキドキしていた胸は次第に凪いでいった。

「……レン……」

目を開け、愛しい息子の名前を呼ぶ。そして木の陰に向かおうとした刹那、ジュエルは足を止めた。

レンが意識を失い、何者かに抱き上げられている。黒い服を着た髭の生えた男性。

「誰なの!?レンを返して!!」

ジュエルはナイフを構え、攻撃体制を整える。いつでも戦える。

しばらく睨み合いが続いた刹那、その場にそぐわない明るい声が響いた。

「ダメだよ、女性がそんなものを振り回しちゃ〜……」

ジュエルの持つナイフが青く輝く。ジュエルは驚いてナイフから手を離した。ナイフはふわりと宙に浮き、ジュエルの背後へと飛んでいった。

「えっ……?あなたは……」

上品なブラウンのジャケットに白いリボンタイのシャツ、ふんわりとしたズボンの金髪の背の高い男性。その整った顔立ちに、ジュエルは見覚えがあった。

「僕の名前は、ユーゴ・アンガス。このシャノン王国の王だよ」