第1章‎✩°。⋆全ての始まり

~2年前~…小学5年生…

「並人〜。」

やっとの思いで授業を終えた僕は、
重たい体を引きずって並人に歩み寄る。

「ん?」

並人の栗色の目が、こちらに向けられる。

「今日の算数分かった?」

僕は、そう言ってあえて1歩近づく。

「一応。」

一応とか言っておきながら自信満々だ。

そのドヤ顔に、
僕は思わず顔をしかめながら言う。

「扇形の面積って、よく分からん…。」

「他はできるのに、
算数だけは壊滅的だよなぁ~。」

なんて言い出し、白い歯を見せて笑ってくる。

その様子が気に入らなくて、はぶててみせた。

「ほっとけ。」

この何気ない会話が幸せで、
僕の救いだった。

並人と過ごす時間は、楽しい。

……僕は知らなかった。

その様子を、
恐ろしい顔で見つめている人の存在を。

放課後、一気に軽くなった体をもてあまし
リズミカルな足取りで廊下を歩く。

「詩雨、俺作文の件で
先生に呼ばれてるから先帰ってて。」

「お、おう。」

しょうがない……か。

少し落ち込んで、
1人で下駄箱に向けて歩き出す。

すると突然背後から話しかけられる。

「深神 詩雨ちゃん。」

ゆっくりと振り返ると、
そこに居たのは今年来た転校生の

富田 花菜(とだ かな)。

皆からお姫様みたいって言われている。

いわゆる美少女。

今まで1度も接点なんてなかったはず…。

「ねぇ~、一緒に帰ろうよ。花菜と。」

そう言って、ニコッと笑った。

……その笑顔は、花菜がクラスの中心で
笑っている時のものとは少し違った。

胸が激しくザワついたが、
そっと息を整えて答える。

「おう。別にいいけど…。」

「やったぁ。花菜すごく嬉しいなっ。
さぁさぁ、早く帰ろう。」

花菜は、そう言うと促すように
僕の背中をおして歩き出した。

夕日が、綺麗だ。

この街、長井は陸の8割が海で囲まれている。

あとで海…見に行こうかな。

そんなことを考えていたら、
突然花菜が話し出す。

「公園に行ってから帰ろう?」

あまりに驚いたので、マヌケな声が出る。

「えっ?」

「花菜とは……イヤ?」

花菜は目を潤ませて聞いてくる。

「ううん。か、構わないよ。」

僕がとっさに受け入れると

「えへ。」

と、満足気に笑った。

やっぱり、女の子は苦手だ。