プロローグ

「しう〜。」

振り返り際、柔らかなくせ毛が揺れる。

「だから僕は、しうじゃない。」

「だって、詩雨って書くだろ〜?」

「それ以上言うとしばく。」

「うっ…。ごめん。」

中学生になって初めての夏が、
訪れようとしています。

僕の名は、深神 詩雨(しんがみ うか)。

いつも名前を読み間違えられます。

あと僕と言ってますが、
生物学上は女の子です。

今からかってきたのは唯一の友人であり、
許嫁の闘道 並人(とうどう なみと)。

それもかなり顔立ちが整っていてモテる。

彼の父は、意外にも大雑把で

「名字がいかついから、
普通な雰囲気が出るようにしたい。」

と、言い出して考えた末に
並人という名前をつけたらしい。

そのまますぎる。

だが僕は、並人という名前が好きだ。

いや…きっと、彼だから好きなんだと思う。




そんな彼を手放してしまえば、
僕が壊れることなど分かっていたんだ。

僕の世界は、もう戻らない。