「……千景じゃないでしょ?」

「え?」


すると、周りに聞こえないようにわたしの耳元でそっと……。


「いつも可愛い声で世唯くんって呼ぶくせに」

「っ……!」


「そんな他人行儀な呼び方はやだなあ」

なんて言いながら、教室だっていうのを忘れているのかってくらいお構いなしにわたしの頬に触れてくる。


「こ、ここ教室だから……呼んじゃダメ…かなって思っちゃったの」

「なんで?」


「な、なんとなく」

「俺、いとには世唯くんって呼ばれないとやだ」

「っ!」


わがまま……。
だけど、そのわがままは嫌いじゃない。

だって、わたしには"世唯くん"って呼ばれないとやだなんて。


誤解しそうになる。
世唯くんがそんなわがままを言うのは、わたしだけなんじゃないかって。


「わ、わかったよ。
ちゃんといつもどおり世唯くんって呼ぶ」

「ん、それでいいよ。
従順な糸羽も可愛いね」

満足そうにフッと笑った。