いつまでも追いかけてばかりで。
少し背伸びをして、届かない存在に手を伸ばして。
つかめそうで、つかめない。
「俺だけがいい……。
糸羽に下の名前で呼ばれるの」
そんなことを言いながら、わたしの髪に触れてすくい上げるようにスッと耳にかける。
自分を特別にしてくれなきゃ嫌だってとらえることもできるけれど。
世唯くんのことだから、それは好きだからとかそういう感情があるんじゃなくて。
単純に自分の近くに置いていたものが、突然他人に取られるのが嫌だから……そう言ってるような気もする。
「アイツ……ぜったい糸羽に気あるよ」
「そんなことない……よ」
こんなことをわざわざ言ってくるのはどういう意図があるの?
だってもし仮に、わたしと真尋くんの間に何かあったとしても、世唯くんはなんとも思わないでしょ?

