夏休みになった。

平良はというと、いつも通り夜になると店に来て、ご飯を食べて、テレビを見て、適当に帰っていく。

休み中も平良は毎日部活。
新体制になって、より気合いが入ったように感じる。

私はとくにやることもなく塾の夏期講習に通うことにした。

講義室に入ってすぐに目に入った人がいた。

まさかの矢野さんと一緒だった。

ほぼ同時に矢野さんも私に気付いた。
今までちゃんと話したことはなかった。
矢野さんがかわいい笑顔で私に近づいてくる。

「前山さんもなんだ?」

ショートボブで、目がぱっちりしてて、足は細いのに胸が大きい。
ギュッとモテを詰め込んだような人。

平良に告白した人だ。

「うん。ビックリした。」
「よかった〜、同じ高校や知り合いいなかったから一人で落ち込んでたよ〜。前山さんは友達と一緒?」
「ううん、私だけ。」
「じゃあ一緒に受けよ。」

驚いた。
矢野さん、私のこと何とも思ってないのかな。

提案通り、隣の席に座ることにした。
他の高校の男子たちが矢野さんをチラチラ見ていることを感じる。
やっぱりすごくかわいいんだ。

「前山さんさ、平良くんから聞いたでしょ?」

心臓が固まるかと思った。
急に本題に入ってきたようなものだ。

私はなんて言おうか返答に困っていると、矢野さんが続ける。

「大丈夫、気を遣わないでいいから。私、1年の時から平良くんのことかっこいいって思ってたんだけど、前山さんと仲良いのも知ってて、ダメ元で告白したようなものだったんだ。かっこいいよね、平良くん。」

矢野さんは私の方をチラッと見る。

「う、うん。」
「かっこいいし、野球も上手いし、頭もいいし、完璧って感じ。」
「完璧かあ。」
「でも、だから私みたいなの好きじゃないんだろうなって思ってた。私は前山さんみたいには絶対になれないから、すごく前山さんに憧れてたんだよ、実は。」

矢野さんはすっごくかわいい笑顔を私に向けた。
驚きだった。
私に、憧れる・・・?
矢野さんがそんなこと思ってただなんて。