「なんでって、ただ矢野さんより沙和の方がいいから。」

平良は慎重に言葉を選ぶように言うと、「それだけ。」と締めた。

「え?」
「なに?」
「そうなの?」
「うん。」

平良は平然としている。

「矢野さんより私の方がいいの?」

私は納得がいかなくて聞き返す。

「うん。」
「あんなに可愛いのに?」

私の言葉に、平良は顔をしかめる。

「可愛いか?」
「え?」
「まあ顔は整ってるけど、性格知らないし、俺は別に好きじゃないけど。」

学年一モテる矢野さんをそんな風に思う男がいたとは。

私は「そっか。そうなんだ。」と呟くように言うと平良に背中を向けた。

「沙和はー」

平良の声で呼び止められる。

「沙和は毎日一緒にいるから分かる。」

私は思わず振り向く。
平良が続ける。

「性格とか。」

性格。

「まあ、そうだね。」
「うん、だから今まで通りだったらハズレはないだろ。」
「ハズレはない・・・。」
「そうだ。」

ハズレはない。
まあ、ハズレはないのかもしれない。
今まで通りだったら。